蓼飾る
襟巻きにしなさい、といって、やたらに胴の長い爬虫類のような生き物をくれた。
白く滑らかな鱗が、粗末な玄関灯を反射して光っている。瞬きをするし、時々舌を出しては空中を舐めている。生きている。首に巻かせて見るとちょっと疑念がわくくらい軽かったが、賢いらしく、自分で輪になってバランスを取り始めた。
少し押し黙ると、耳に音ともいえない小さな拍動が伝わってくる。本当に生き物だ。こんな、突然渡されたとて、世話をどうすれば。くれた人を見ると、焦点を探すように目を細めて、大丈夫、空気を舐めて生きるから、だからそれ、軽いだろう、と言った。確かに軽い。編みの細かいマフラーと変わらない。
「食うものが空気だから、出すものも空気でね、ただの襟巻きと思ってくれればいい」
何かを見終えて、その人は目元から力を抜いた。
「寝床もいらないから、用がなければ適当に床に置いとけばいい」
どこか満足げですらある。
上背の高いその人の頭は明かりから外れて、夜の闇に半分食われたようになっている。顔は見えるが、表情の中身はうかがい知れない。まあ、真昼であれば分かるのかというと、怪しい人ではあるけれど。
首で落ち着く不明のことを考える。今まで贈られてきた品々の前歴から、これもかなり値の張るものであろうと察せられた。先の説明の限り、常人の間で出回るものではない。この人の立ち入る、地下倶楽部だか秘密会合だか、暗幕の中できらめく世界のものだろう。築40年のアパートに来る運命にはなかったはずだ。すでに部屋に飾ってある、鉱石や、枯れない花や、流れ続ける砂たちと同じく。そして、コート一枚で自分の月給を軽く上回るような身なりのこの人と同じく。
胸が浮き上がるような感覚に、おそるおそるつばを飲み込んだ。
不釣り合いだと思うのに、押し返すこともできやしない。
空気清浄機を、買ったほうがいいですか。
そう尋ねると、その人は口を少し開いて、しかししばらく何も言わなかった。言葉を選ばされるような、ばかなことを言ったらしい。しかし取り繕おうにも脇道もない。とくとくとくとく、耳にただ心音が響く。
やがてその人はゆっくり瞬きをして、だから君にあげたかった、と言った。
尋ねたことの返答が得られず、少し気が焦ったが、その人がそのままぼんやりとした表情になってしまったので重ねてきくことができなかった。この顔つきでいる間はずっと返事がないのだ。襟巻きはじっとしている。言葉を持て余して立つ二人の男を知覚しているか、いないのか、じっと俺の首に収まっている。
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