らりるれろ
欄干に腹を押し付けて、俺はこの世の一切を呪った。目からとめどなくあふれるのは、心が溶けた結果だ。言葉もなく、ただ雫にして押し出すしかない。痛い。痛い。最後まで、お願いだから最後まで出ていってください。少しでも残ってしまったら、俺は明日から生きていけない。
竜胆の花を、あの家に頼まれたと言って持たされたとき、勿論気乗りしなかった。風邪は治っても鼻の奥に染みついた甘さは消えず、荒木のことを思うたびに強く匂った。あの日、確かに荒木は生垣の前に立っていた。清純ではないと言い捨ててから荒木は俺を避けている。あの家に取り憑いているのだろう。
ルビコン川も渡らんと、俺はあの家に向かった。今度は先に荒木に会いたかった。驚かさないようにと回り道をすると、水路の流れるほうから家を覗ける橋があった。門とは反対の方から望める。気まぐれに欄干に足をかけると、生垣を越えて見ることができた。そうして、俺の瞬きは絶望を食った。
恋情だったかは未だ分からなかった。だから確かめたかった。液体になって顎から滴るものは、一体何だろう。喉が千切れそうに痛むのは、何の為だろう。俺は何を願ってここに来たのだろう。生垣の向こうに見た、荒木と知らぬ女、裸の二人を、今すぐに殺したいと思うのは、どうして。
露見した汚濁が体をむしばむ。無力な手から竜胆が抜け、水路の中へ回りながら落ちていった。鮮やかな青に見覚えがあると気づいて、再び多くの水が目に沸いた。青が、あの日の傘の色が、以来俺の心の色になっていた。落ちて、散り散りになっていってしまう。短かった俺のすべてが、消えてしまう。
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