死ぬように、恋をする

 どこで手ごたえを掴んだのかは分からないんだけど、と静男は言った。

 静男の声はくぐもっている上に、喋る時にうつむく癖があるため、ガヤガヤと賑わしい周りの音に消されそうになって非常に聞き取りづらかった。

 手ごたえ、あったんだ。返しながら、半歩に満たない歩幅で前に進む。小刻みな前進はじれったいほど遅かった。つづら折りになって延々と並ぶ人、人、ヒト。浮ついた空気に感覚が閉じていくようだった。

 うん、一応ね。どこかはわからないんだけど、なんとなく。まあ元々仲良かったし、二人で飲みに行ったりしてたし、遊び行くったら大体一緒に出掛けてて。ノリで二人でプリクラとったりしたし。

 マジか。ちょっと引く。あからさまにリアクションに困っている俺に、静男は顔を半分だけこちらに向けて、見る?と言いながらリュックのジッパーに手を伸ばした。丁重にお断りした。

 まあそんなわけでして、これいけるんじゃねーのって思って。

 下を向き続けて疲れたらしく、静男は首をぐるりと回した。パーマで揺れる毛先が、細長い首をなでる様は、決して言わないけれども色気があると思う。首と肩をたっぷり回して、深々とため息をつく静男を眺めていたら、列に大分間が空いてしまっていて、慌てて進んだ。普通の歩幅がちょっと懐かしかった。

 飲み屋でさあ、いい感じに酒入れて、よし言おうって思ったわけ。

 飲みながら告白ってどうなの?

 いや、後から冗談にできるかと。

 笑顔の係員に徐々に近づいていく。それでね、という静男の言葉は、少々お待ちください、というでかい声にぶった切られてしまった。

 滑り込んできたトロッコ風の乗り物に、促されるままに乗り込む。二人乗りの座席を一挙にまとめる安全バーを降ろしたら、バーと静男の腹の間には拳一つ分以上の隙間ができていた。ギョッとしたけどおれの胴体はもういっぱいいっぱいだったので、死ぬなよ、と念を押しておいた。静男は黙って安全バーに腕を巻きつけた。

 でさあ、軽い感じで、オレお前とならセックスできる気がする、むしろしたい!って言っちゃって。

 それ告白じゃねーよ。

 ガクン、とトロッコが大きく揺れて、尻の下で車輪が回転する。いってらっしゃい!と係員の声。ゆっくりとアーケードをくぐって、白く飛んだ景色の中に入っていく。

 オレにっこにこしながら言ったのに、言いきって相手の顔見たらマジで固まってんの。なんていうかあれ、道端でうんこ踏みそうになった時みたいな顔してて。いや冗談冗談って言ったらなんとか笑ってくれたんだけど、あれは厳しかったね。厳しかったっつうかアウトだね。大苦笑しながらさりげなく椅子引いてたから。

 静男の声はよどみなく続いているけど、ガタンガタンと車輪が線路を捕まえて登っていく音でやっぱり聞き取りづらい。あと、線路高い。高すぎる。横見れない。ろくな返事ができなかったけれど、別に構わないようだった。

 それでさ、だよな男とか流石に無理っしょ無理無理って早口だし。

 目の前に直線で見えていた線路が、突然姿を消す。ひらける風景。少し離れたところに見えたメリーゴーランドは、なぜかピタリと止まって見えた。うそ、死ぬの?

 耐えきれなくなって静男の頼りなさすぎる腕に片手でしがみついた、と同時に、トロッコが、絶命したように前傾した。

 耳の下で、風が膨らんだ。内臓が飛んでいく。

「おとこでわるかったなドカス野郎がぁぁぁぁぁあああああーーー!!!!」

 野太い叫びは、前後から聞こえる嬌声から思いっきり浮いていただろう。息が続く限り叫び終えると、静男はそれ以降何も言わず。アトラクションに乗っているとは思えないほど微動だにしなかった。

 おれの口からは情けない犬のような声がか細く漏れ続けていた。声どころか若干尿も漏れた気がする。ああ、奈落。

 お疲れさまでした。係員が安全バーを上げるまでお座りになってお待ちください。

 再び薄暗いアーケードの中へ滑り込んでいく。

 全てをはぎ取られた気持ちで、静男をちらっと見ると、今までこの場所でじっとしていましたと言わんばかりの真顔だった。ただ、こめかみが少し濡れていて、バーが上がるや否や手の平でグイっと拭って、鼻をすすった。

 足の筋肉が完全にどっかに行ってしまったおれに手を貸してくれながら、高所恐怖症なのに付き合ってくれてありがとう、と、こればかりはうつむかずに言ってくれた。

 空は晴天で気温もちょうどよくて、こんな日に男二人で遊園地なんて正直何もテンションは上がらない。だけど、鳴りやまない心臓はジェットコースターのせいだけじゃなくて、勇ましい声や堂々とした真顔が響いている気がする。

 これは吊り橋効果というやつなのか。前を歩く背中が細すぎてくらりとする。

 静男。

 振り向いた顔の、長めの前髪から覗く目とか、こけた頬とかにさえ、妙に色気があるなと思ってしまったおれは、まだ高い高い空中を飛び続けている気分だった。

白状

申し上げます どうかこれきりと願います

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